大判例

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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)1843号 判決

原告

大東京火災海上保険株式会社

被告

昭栄自動車株式会社

主文

一  被告は原告に対し四七万九、七二六円およびこれに対する昭和五〇年三月二五日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決第一項は、仮りに執行することができる。

事実

第一当事者双方の求めた裁判

一  原告

(一)  被告は原告に対し、金一二八万九、五八八円およびこれに対する昭和五〇年三月二五日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

(三)  仮執行の宣言

二  被告

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

訴外鈴木マツは、次の交通事故によつて傷害を受けた。

(一)  日時 昭和四一年一〇月三日午後二時五〇分頃

(二)  場所 東京都足立区千住一丁目五一番地先交差点

(三)  加害車(甲) 普通乗用自動車(足立五せ一六二八号、以下単に甲車という。)

右運転者 訴外 多田勝也

(四)  加害車(乙) 営業用普通乗用自動車(足立五い一三〇二号、以下単に乙車という。)

右運転者 訴外 大森武男

(五)  態様 右交差点において乙車が進行中、右側道路から進行してきた甲車が乙車の側面に衝突した。

二  責任原因

訴外並木良は甲車を所有し、被告は乙車を所有してそれぞれ自己のために運行の用に供していたものであるから、いずれも自賠法三条に基き本件事故によつて鈴木マツが受けた損害を賠償する責任がある。

三  鈴木マツに生じた損害

鈴木マツは並木良、多田勝也、被告および大森武男の四名を共同被告として東京地方裁判所に損害賠償請求の訴を提起し(同裁判所昭和四四年(ワ)第三、〇二〇号損害賠償請求事件)、右事件につき同裁判所は昭和四八年一二月一八日、鈴木マツの本件事故による総損害を六二二万四、三七四円と認定したうえ、右事件の被告四名に対し並木良が既に支払つた一一四万円を控除した残額五〇八万四、三七四円および右金員に対する昭和四一年一〇月三日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員の連帯支払を命ずる旨の判決を言渡し、右判決は鈴木マツと並木良および多田勝也との関係では確定し、被告と大森武男は控訴したが控訴審で和解が成立した。

ところで、原告は昭和四一年八月一七日並木良との間で甲車につき保険金一、〇〇〇万円、保険期間を昭和四一年八月一七日から同四二年八月一七日までとする自動車対人賠償責任保険契約を締結していたので、右保険契約に基く同人の委任を受け、鈴木マツに対し昭和四九年一一月までに六四五万八、六二六円を支払つており、他方、被告は前記和解に基いて鈴木マツに対して五〇万円を支払つている。

したがつて、鈴木マツに対しては前記判決前の支払額一一四万円を合わせると八〇九万八、六二六円が支払われたことになるが、右金額は前記判決認容額五〇八万四、三七四円とこれに対する昭和四一年一〇月三日から同四九年二月一五日までの遅延損害金一八七万四、二五二円の合計額に判決前の支払額一一四万円を合計した額に相当し、これが本件事故による鈴木マツの総損害額である。

四  求債権の発生

右鈴木マツの損害は多田勝也の過失と大森武男の過失が競合して惹起された共同不法行為によつて発生したものであるところ、右過失割合は多田の過失七に対し大森の過失を三とみるのが相当であるから、甲車の関係で負担すべき額は前記総損害額の七割に相当する五六六万九、〇三八円となる。

しかるに、甲車の運行供用者である並木良は前記のとおり右負担部分をこえる七五九万八、六二六円を支払つているから、同人は自己の負担部分の超過額一九二万九、五八八円につき乙車の運行供用者である被告に対して求債権を取得し、原告は前記並木良に対する保険金の支払により商法六六二条によつて同人が被告に対して有する求債権を取得した。

五  自賠責保険金の支払

原告は昭和五〇年三月七日被告加入の自賠責保険付保会社である訴外千代田火災海上保険株式会社から右求債権に基き六四万円の自賠責保険金の支払を受けた。

六  結論

よつて、原告は被告に対し一二八万九、五八八円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五〇年三月二五日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三請求原因に対する被告の認否および抗弁

一  認否

(一)  請求原因第一、二項の事実は認める。

(二)  請求原因第三項の事実中、原告主張のとおりの判決の言渡があり、右判決は鈴木マツと並木良および多田勝也との関係では確定し、被告と大森武男は控訴したが控訴審で和解が成立し、被告が鈴木マツに対して和解金五〇万円を支払つたこと、および、原告と並木良との間に主張のような保険契約が成立していたことは認めるが、原告の鈴木マツに対する支払額は不知。

(三)  請求原因第四項の事実は否認する。

二  抗弁

本件事故現場は商店街を南北に通ずる人通りの多い幅員六メートルの歩車道の区別のない道路(旧日光街道)とこれを交る幅員五・二メートルの道路が交差する丁字型交差点であり、車両の最高速度は四〇キロメートルに規制されている。

大森武男運転の乙車は右南北道路を直進中に右折車である甲車に衝突されたものであるが、甲車の運転者である多田勝也は左方の安全確認を怠つたことを自認しているのみならず、右両道路の状況、幅員および甲車の衝突部位が乙車の後部側面であるという点からみても、右多田には改正前の道路交通法三五条一項(先入車両の優先)、同条第三項(左方車両の優先)、同法三六条二項(優先道路等にある車両の優先)、および同法三七条一項(直進車両の優先)に違反して交差点に進入した過失があり、本件事故はもつぱら多田勝也の右過失によつて発生したものであつて甲車運転者である大森武男には何ら過失はない。

したがつて、本件事故について被告に損害賠償責任はない。

第四抗弁事実に対する原告の認否

否認する。

第五証拠〔略〕

理由

一  事故の発生および責任原因

請求原因第一、二項の事実は当事者間に争いがない。

二  事故態様および過失割合について

成立に争いのない甲第二号証の一(乙第四号証に同じ)、同第二号証の五、乙第三号証の二ないし四、本件事故現場の写真であることに争いのない乙第九号証の一ないし八および証人大森武男の証言を総合すると、

(一)  本件事故現場は商店街を南北に通ずる歩車道の区別のない幅員六メートルの道路(旧日光街道)と歩車道の区別のない幅員五・二メートルの道路(区役所裏通り)とが交る左右の見とおしの悪い丁字型交差点であり、右旧日光街道は北から南への一方通行、最高速度四〇キロメートルの各交通規制がなされており、事故当時現場附近は人通りが多く、駐車車両も多かつた。

(二)  多田勝也は甲車を運転し前記区役所裏通りを東進してきて本件交差点に差しかかり同交差点を右折しようとしたのであるが、左方の安全確認を怠つたまま右折を開始したため、交差点進入後はじめて左方から進行してくる乙車に気づき、これとの衝突を避けるため急ブレーキをかけたが間に合わず、交差点中央のやや南寄り附近で自車左前部を乙車の右後部ドアに衝突させた。

(三)  大森武男は乙車を運転してタクシー営業中、本件交差点の北方四、五〇メートル附近にある美容院で鈴木マツ外四名の乗客を乗せたうえ時速二〇キロメートル位の速度で南進してきて本件交差点に差しかかつたが、漫然前方のみを注視して交差点に進入したため、衝突するまで甲車の存在に気がつかず、ブレーキおよびハンドルの操作による避難措置は全くとつていない。

以上の事実が認められ、前掲証拠中右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定に反する証拠はない。

右認定の事実によると、甲車運転者である多田勝也は見とおしの悪い交差点で右折するに際し左方の安全確認を怠つたばかりでなく、乙車は直進車であるのに対し、甲車は右折しなければならないのであるから、直進する乙車の進路を妨害してはならず、同車の通過を待つて右折すべきであるのに、この義務にも違反したことは明らかであるが、他方、乙車運転者である大森武男は、自動車運転者として、交差点に進入する際には自車が直進車として優先して進行し得る場合であつても、常に前方のみならず左右の安全にも注意すべきであるのに、漫然前方のみを注視して交差点に進入したため衝突するまで甲車に気づかず、何らの避難措置もとつていないのであり、本件交差点の状況からすると右折者である甲車の交差点進入時の速度が高速であつたとは考えられず、右方の安全を確認していれば本件事故発生を回避し得た可能性もあつたと認められるので、同人にも本件事故発生について過失があるといわざるを得ない。

そして以上認定の両者の過失内容を対比すると、両者の過失割合は多田勝也が八、大森武男が二と認めるのが相当である。

三  免責の抗弁について

前記のとおり乙車の運転者である大森武男に過失が認められるので、自賠法三条但書のその他の要件の有無について判断するまでもなく被告の免責の抗弁は理由がない。

四  鈴木マツの損害

鈴木マツが並木良、多田勝也、被告および大森武男の四名を共同被告として東京地方裁判所に損害賠償請求の訴を提起し(同裁判所昭和四四年(ワ)第三、〇二〇号損害賠償請求事件)右事件につき同裁判所は昭和四八年一二月一八日、鈴木マツの本件事故による総損害を六二二万四、三七四円と認定したうえ、右被告四名に対し並木良が既に支払つた一一四万円を控除した残額五〇八万四、三七四円および右金員に対する昭和四一年一〇月三日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員の連帯支払を命ずる旨の判決を言渡し、右判決は鈴木マツと並木良および多田勝也との関係では確定し、被告と大森武男は控訴したが控訴審で和解が成立し、被告が和解金五〇万円を支払つたこと、および、原告が昭和四一年八月一七日並木良との間で甲車につき保険金一、〇〇〇万円、保険期間を昭和四一年八月一七日から同四二年八月一七日までとする自動車対人賠償責任保険契約を締結していたことは当事者間に争いがない。

そして、成立に争いのない甲第三号証の二ないし四、弁論の全趣旨によつて成立を認め得る甲第四号証に弁論の全趣旨を併せ考えると、並木良は鈴木マツから前記判決に基き同判決の認容額元金五〇八万四、三七四円とこれに対する昭和四一年一〇月三日から同四九年二月一五日までの遅延損害金一八七万四、二五二円の合計額六九五万八、六二六円から前記被告の和解に基く支払額五〇万円を控除した残額六四五万八、六二六円の請求を受けたので、同人は原告に対し前記保険契約に基いて右同額の保険金を鈴木マツに対して直接支払うよう委任し、原告は右委任に基き鈴木マツに対し昭和四九年一一月までに保険金六四五万八、六二六円を支払つたことが認められる。

以上の事実によると、鈴木マツに対しては前記判決前の並木良の支払額一一四万円、被告支払額五〇万円、原告支払額六四五万八、六二六円の合計額八〇九万八、六二六円が支払われたことになるから、本件事故による鈴木マツの総損害額は八〇九万八、六二六円であると推認するのが相当であり、右推認を妨げるような証拠は存しない。

五  求償権の発生と原告の保険者代位

前認定のとおり鈴木マツの損害は甲車の運転者である多田勝也と乙車の運転者である大森武男の共同不法行為によつて発生したものであるから、甲車と乙車の各運行供用者である並木良と被告も共同不法行為者として連帯(不真正)して鈴木マツに対し損害を賠償する責任があるが、並木良と被告との内部では各車両の運転者の過失割合によつて負担部分が定まり、負担部分をこえる賠償をした者は他方に対して求償し得べき関係にあるところ、前認定のとおり並木良は鈴木マツに対し判決前の支払額一一四万円と原告に委任し支払つた六四五万八、六二六円との合計額である七五九万八、六二六円を支払つているので、同人の負担部分である総損害八〇九万八、六二六円の八割六四七万八、九〇〇円をこえる部分一一一万九、七二六円について被告に対して求償金を取得したことになる。

そして、原告は前記並木良との保険契約に基き前記のとおり六四五万八、六二六円の保険金を支払つているので、商法六六二条によつて並木良が被告に対して有する右求償権を取得したものと認められる。

六  自賠責保険金の支払

原告は昭和五〇年三月七日被告加入の自賠責保険付保険会社である千代田火災海上保険株式会社から右求償権に基き六四万円の自賠責保険金の支払を受けた旨自認しているので、右金員は前記求償金額から控除すべきである。

七  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は被告に対して四七万九、七二六円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和五〇年三月二五日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 笠井昇)

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